エッセイ

尾崎晋也のエッセイ|13「中華料理」

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ついに私の住むルーマニア、トゥルグ・ムレシュの街に中華料理店が開店した! 知り合いに聞いたら、街のど真ん中にあるという。実はもうできてから一年もたっていた。もっと早く知りたかったな。東洋の味に飢えていたんだから。ドラや爆竹を鳴らして派手に宣伝してくれたらよかったのに。

トゥルグ・ムレシュの春

待ちに待った中華が食べられると、早速秘書男女二人と、僕のドライバーを連れていった。基本的にルーマニア人は同じようなものを毎日食べても飽きない人たちで、日本人のように新しいものには挑戦しない。でも中華料理は世界で最もハズれのない食事だ。彼らだってきっと喜ぶに違いない。「よーし、今日は僕がみんなに説明してあげるから」と意気込む。

丸いテーブルを回したり、おはしを振り回したりして、すごいだろー、すごいだろー、と料理が来る前から興奮していた。スープが全員にそろった時点でみんな一斉に食事開始と、ここでも指揮者の習性がでて、ついつい仕切ってしまう。

ところが食べているうちに、僕はどうもなにかおかしいと感じ始めた。そのうちもう一人の女性秘書も同じように感じていることが分かった。なんか、変。僕はのぼせるような気がして、彼女は指が震えるというのだ。

気にしないことにして、メーンディシュを食べ始めても、同じ症状。これはなにかある。キッチンから中国人のコックが出てきた。もしかしてと思い、必死で漢字で筆談すると、「化学調味料」をものすごく大量に使用していることが判明。やっぱり。それを聞いてみんな気持ち悪くなって、その食事会はお開きになった。

アメリカのチャイナタウンなどは、ちゃんとそういう化学物質を使っていないとうたっているレストランが多い。健康への意識の違いだろう。

せっかく意気込んで料理の説明をしようと思っていたのに、僕の出る幕がなくなってしまった。おまけに空腹のままお開きになって、ドライバーなどは目が露骨に不満を表していた。今日はこの辺で許してやるか、なんて訳の分からないことを言いつつお勘定。「ねぇ、これ、食べられなかったんだから払わなくっていいでしょう?」といっても、ウエートレスはオーナーの許可がないから払ってくれの一点張り。なんてこったとみんなぶつぶつ言いながら、割り勘にした。

ルーマニアという国はサービスという概念が欠如している。まだまだ共産主義の名残が強く、客の立場になって臨機応変に対応していくということは難しい。お店に入ってにっこりしてくれたら、その日一日中ラッキーな気持ちがする。大概は店員同士が話に夢中で客に気づいてくれないか、店の電話を私用で使い、「なんで今じゃまするのよ」という目で見られる。

僕はおなかがすいてガッカリだったのを、「これはこの国の重要な問題だ」なんて、話題を難しい問題にすりかえてこの場をしのごうとした。僕が言い出したんだもの。

とりあえず次回は化学調味料なしで頼もうということで全員一致。席を立とうとすると、すかさずウエートレスが食べ残した皿を指差した。「あのー、これお持ち帰りにもできますけど。オーナーに客が残したらそうできるようにしろといわれていますから」

これだから、この国のサービスはなってないんだ。みんなで頭を横に振り振り、店を後にした。

2004/02/27 

ルーマニアの黒ワイン

僕も飲んでるルーマニアワインです。フェテアスカ・ネアグラはとても珍しくルーマニアの土着品種。「黒い貴婦人」という名前です。これはルーマニアでしかできない黒ワインというカテゴリーのものなのですよ。その中でもこのワインは生産量数が限られている貴重なものです。

エッセイについて

これは南日本新聞に11年間150回にわたり連載した「指揮棒の休憩」というエッセイです。長く鹿児島の読者に読んでいただいて感謝しています。今回、このブログにも掲載します。

\エッセイをまとめた本・好評です!/

\珍しい曲をたくさん収録しています/

\ショパンの愛弟子・天才少年作曲家の作品集・僕の校訂です!/

\レコーディング・プロデューサーをつとめて制作しました!/

 

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