エッセイ

尾崎晋也のエッセイ|16「温泉」

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温泉はいい。先日、建築デザイナーの友達と温泉の話をした。彼は日本各地の温泉を入り歩く、今風にいう「オンセナー」なんだそうだ。僕も今まで入った温泉の話をして情報交換。温泉で気持ちがいいのは当たり前なので、お互いの変わった経験を話して盛り上がった。

彼の話で印象に残っているのは西日本の山の中の温泉で、「毒ガスのため、ここから入ったら死んじゃっても知りません」という立て看板のある所。なんと彼はそこをずんずんと進んでいった。

途中、近くの宿の主人にばれ、携帯電話に連絡が入って一瞬ひるんだが、電話口で「そこから先は自動販売機がないので、ビールは下で買っていったほうがいいですよ」と言われ、ガクッと緊張感が抜けたそうだ。

僕はハンガリーの温泉の話をした。ドナウ川の近くの古い石造りの建物の中にある温泉。これがまたいい。水着をきて、何階かに分かれているいろいろなお風呂に入るという趣向。そう、これだけなら本当にいい。

だが五月の本当に心地よい天気の時に行ったので、僕はつい屋上の展望風呂にも行こうと思ってしまったのだ。温泉プール、太陽、子どもたちの浮輪、色とりどりのパラソル。たくさんの地元っ子がベンチで日光浴していた。この屋上に春のブダペストの幸せが集まっているかのようだった。

プールは二つ。もちろん、大人用と子供用だ。僕は大きなプールの方に入った。おっ! 足が届かない。びっくりしたけど僕の趣味は水泳、その点はすぐにクリア。ところが僕が入ると同時に、周りのハンガリー人たちが少しずついなくなっていく。みんな端の浅い所に集まっている。

ブダペストは国際都市だし、東洋人の僕が珍しいわけでもないのだろうに、と不思議に思っていた。なにかこちらを見てニヤニヤしているなーと思った瞬間、大きな波がザバザバと押し寄せてくるではないか。気がついたときには水面でアップアップしていた。彼らは人工の波、それも大波を作っていたのだ。

こんなこと、この古い建物の中で起こるなんて予想もしなかった。そのときに足がつかない程深い所にいたのは僕一人。みんなは浅い所でキャーキャー無邪気にはしゃいでいるのに、僕だけが海難救助訓練よろしく、必死に浮かんでいたのだ。

いかん! このままでは翌日の新聞に「日本人指揮者わが国の温泉で水死。島国出身でも泳げない悲しさ」なんて書かれてしまう。なんとかせねばと、必死の思いで近くの人に浮輪を投げてもらった。ハァハァ、息を荒らげながらプールサイドに上がって、悪夢のような入浴は終わった。

その日のフライトでブダペストをたった僕は、飛行機に乗るやいなやぐったりと寝てしまった。機内ではいつものように映画を放映している。

いつも日本のロードショーより一足早く話題作を見られるので楽しみにしているのだが、その日は睡魔に勝てなかった。最新作の「007」の映画。うとうとしていてふと目を開けると、ジェームス・ボンドと悪役たちが東欧の温泉の中を走り回っていた。

夢に出ないと思っていたら、こんなところに出たか。今度から温泉は足がつくかどうか確認してから入ろーっと。

2004/04/30

ルーマニアの黒ワイン

僕も飲んでるルーマニアワインです。フェテアスカ・ネアグラはとても珍しくルーマニアの土着品種。「黒い貴婦人」という名前です。これはルーマニアでしかできない黒ワインというカテゴリーのものなのですよ。その中でもこのワインは生産量数が限られている貴重なものです。

エッセイについて

これは南日本新聞に11年間150回にわたり連載した「指揮棒の休憩」というエッセイです。長く鹿児島の読者に読んでいただいて感謝しています。今回、このブログにも掲載します。

\エッセイをまとめた本・好評です!/

\珍しい曲をたくさん収録しています/

\ショパンの愛弟子・天才少年作曲家の作品集・僕の校訂です!/

\レコーディング・プロデューサーをつとめて制作しました!/

 

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