みなさん、「紅一点」という言葉を聞いたことはありますよね。今回は食べ物に直接関係ありませんが、実を食べるザクロ、その花と関係しているということで「紅一点」の話題を書きたいと思います。
「紅一点」は一般に以下の意味で使われていますね。
多くの同じようなものの中で、一つだけ目立っているもののたとえ。特に、多数の男性の中にいる、ただ一人の女性。
それでは、「紅一点」という故事のお話を書きましょう。
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「紅一点」はザクロに関する故事だった
11世紀の中国、北宋王朝の時代の文人、王安石の「柘榴を詠む」という詩の一句、「万緑叢中紅一点(一面の緑の葉の中に、紅色のザクロの花が一つだけ、咲いている)」から。ただし、この詩は、「書言故事」という書物に引用されていますが、王安石の詩文集には見当たらず、別人の作とする説もあります。
これはザクロを表しているものだったのです。
王安石とは
王 安石(おう あんせき、拼音: 、天禧5年11月12日(1021年12月18日) – 元祐元年4月6日(1086年5月21日))は、北宋の政治家・思想家・詩人・文学者。字は介甫。号は半山。撫州臨川県の人。新法党の領袖。神宗の政治顧問となり、制置三司条例司を設置して新法を実施し、政治改革に乗り出す。文章家としても有名で、仁宗に上奏した「万言書」は名文として称えられ、唐宋八大家の一人に数えられる。また詩人としても有名である。儒教史上、新学(荊公新学)の創始者であり、『周礼』『詩経』『書経』に対する注釈書『三経新義』を作り、学官に立てた。
王安石の詠んだ詩
万緑叢中紅一点、動人春色不須多
万緑叢中紅一点、人を動かす春色多きを須いず。
「一面の緑の中に鮮やかな紅色の花が一輪咲いている。人の心を動かす春の景色の中に多くのものは要らない」という意味です。ただし、現代ではそのような原義では用いられず、多くは「多くの男性の中に、ただ一人女性がまじっているたとえ」として用います。
この詩は、一般に王安石の作であるとされています。しかし、そうではないという説(范正敏「遯斎閑覧」)もあり、真偽の程は不明です。
宋の范正敏(ハンセイビン)の「遯斎閑覧:トンセイカンラン」にはこうあります。
「これは唐代の詩で誰が作ったか分かりません。かつて、私は王安石が持っていた扇に自筆でこの句が書いてあったのを見たことがあります。王安石が書いたのであって、自作かどうかは不明です」
ザクロの花
ザクロにはたくさんの種類があって、果実を食べることが目的の「実ザクロ」と花を鑑賞することが目的の「花ザクロ」の2つに分けられるようです。この写真は「実ザクロ」の花です。
花ザクロ
私たちはザクロというと、赤い実を想像してしまうのですが、花を鑑賞するための「花ザクロ」というものがあるようです。花を楽しむための園芸品種なので実はなりません。
八重咲きの花、つまり花びらが数多く重なって咲くものです。
白い花をつけるものを白榴(はくりゅう)、黄色の花をつけるものを黄榴(こうりゅう)といいます。
ザクロの原産地
ザクロは地中海および西アジアの乾燥 半乾燥地帯(現在のイラン付近から北インド)が原産の低木、Punica granatum の果実です。ザクロの学名 Punica granatum の punicaは「ザクロ属」、そして「granatum」は粒状の、という意味です。
「ザクロ」の英語表記は「pomegranate(ポムグラネイト)」です。これは中世フランス語から来ています。その語源はラテン語で「りんご」をさす pome と「種の多い」という意味の granate から来ています。
ザクロの語源
ザクロの名は、「石榴」とも書きます。原産地のチグリス川とペルシア湾の東方に、それに並行してザグロス山脈が走っています。この地方がザクロの原産地で、そこから持ち帰った実なので、その山脈の名の発音に近い字で「石榴」と音訳したのだともいわれています。
ザクロは東南欧からヒマラヤ山脈まで自生しています。中国へ2世紀の漢代に西域の安石国(サマルカンド)から張騫(ちょうけん)が持ち込んだ。それで安石榴とも書きます。
ザクロは種子が多いので、繁殖と豊富の印とされていました。トルコでは、新婚のとき新婦がザクロを地面に投げて割って飛び散った種子の数で、その夫婦間に生まれる子の数を占ったのだそうです。
昔のトルコの結婚式の写真
古代史とザクロ
世界で最も古い果物の一つであるザクロの歴史は長く、魅力的です。
エジプト
「ザクロを食べ、風呂に入れば、あなたの若さは急いで戻る」 ー 古代エジプトの諺。
古代エジプトでは、ザクロは薬用として知られていました。紀元前1550年に作られたエジプトの医学パピルス「エベルス・パピルス」には、エジプト人がザクロをサナダ虫や、さまざまな感染症の治療に使っていたと書かれています。
イスラエル
ザクロは、放浪の旅をしていたイスラエルの民に珍重され、「イチジク、ザクロ、オリーブの木が生える」約束の地に戻ることをイスラエルの民は切望していました。「雅歌」の詩人は、愛する人を「ザクロの公園」にたとえ、その頬を「ザクロが割れたようだ」と、6回もザクロに触れています。
ザクロの果実は、初期のユダヤ教の装飾芸術において重要な位置を占めており、大祭司の衣の裾に刺繍されたり、神殿の柱の柱頭に刻まれたりしていたのです。このような背景から、ザクロは神聖さ、豊かさ、忠実さを象徴していると考えられていました。
トロイ
ザクロは古代の神話や芸術にも登場します。 先史時代のトロイではザクロの形をしたゴブレットが発見されています。ゴブレットとは、簡単に言ってしまえばグラスに脚と土台がついた「杯(さかずき)」の事です。ワイングラスのように脚が長くないから日常使いもできますね。
同時代キプロス人のゴブレット
こういう感じですね、ゴブレット。
ギリシャ
ギリシャ神話ではペルセポネーを誘惑して冥界から出られなくしたのがザクロの実でした。
古代ギリシャでは、ペルセポネーの神話を通して、季節の移り変わりを理解するようになりました。この物語では、ペルセポネーはハデスに誘拐され、彼の妻となるために冥界に連れて行かれます。ペルセポネーの母デメテル(収穫の女神)は喪に服し、地上の緑色のものはすべて成長を止めたのです。ゼウスは地球が滅びるのを恐れ、ハデスに命じてペルセポネーを解放させました。運命は、冥界で食べ物や飲み物を取った者は永遠に冥界に留まるよう定めていました。そこで、ハデスはペルセポネーを陥れようと、ザクロを差し出します。ペルセポネーはザクロの種を6粒食べ、1年のうち6ヶ月間冥界に閉じ込められることになったのです。この半年間、デメテルは娘を弔い、大地に豊穣を与えなくなったため、古代ギリシャでは季節が異なるという説明がなされるようになったということです。
ローマ
鬼子母神
鬼子母神(きしもじん/きしぼじん)は仏で訶梨帝母(かりていも)とよばれ、もと異教徒で多勢の子がありながら常に人の子を取って食べていました。人々の訴えをきいたお釈迦さまがその不在中に末の子を取って隠したところ、帰ってきて驚き悲しんだのです。そこで釈迦が説法をして、ザクロの実を与えたといいます。
鬼子母神と赤ん坊の像(2-3世紀頃、ガンダーラ、大英博物館蔵)
そこで、ザクロには人間の味があると(日本では)言われるようになりました。
江戸時代、銭湯の柘榴口(ざくろぐち)
江戸時代の銭湯の脱衣場から浴槽への出入口を石榴口(ざくろぐち)とよびました。浴槽の湯気を逃さないようにするために、仕切りを狭くする造りを取ったのです。その結果、浴槽の温度は50度近くにのぼったのだそうです。
江戸時代、鏡をみがくにはザクロの酢をつけました。この石榴口(ざくろぐち)を出入りするには、かがみます。「柘榴口」は高さ90センチほどしかなかったからです。石榴口(ざくろぐち)は、「かがみいる(屈入)」を「かがみいる(鏡要)」にかけてつけたしゃれた名前であったんですね。
この頃、体を洗う前に浴槽につかり体を温めるのが普通でした。水を豊富に使えない事情もあり、浴槽の湯は汚く、体を温めるだけに使われたのですよ。浴槽から出るときは、別に上がり湯をもらっていました。上がり湯をくむ者は「ざくろ口」の脇に控え、湯くみ番と呼ばれていたのです。
中央にあるのが「ざくろ口」です。その右脇には上がり湯をくむ「湯くみ番」が見えますね。「職人尽絵詞」より
ザクロの味
ザクロはイランに生育する品種が最も高級とされているのですよ。乾燥して光沢のない皮に包まれた2層の内室には、ルビー色の半透明な小果実が詰まっています (淡色系や黄色系の品種もあります)。
ザクロの実は花托(かたく)の発達したもので、果皮が厚くて果肉を形成せず、内部に子室があって薄い隔壁で区画されています。多数の種子がその隔壁に沿って配列されているんですね。外種皮は多汁で、甘い風味があります。
ザクロは甘味が強く、酸味もかなりありますね。 鮮やかな色の果汁にはアントシアニン色素や関連したフェノール性抗酸化物質が豊富に含まれているので、渋味を感じることも多いです.。
果実をまるごとつぶして作られる果汁には、小果実自体よりもタンニンが多く含まれています。外皮にはタンニンが非常に多いので、なんと皮をなめすのにも使われるほどなのですよ。
小果実のひとつひとつに大きな種子が含まれているため、一般には果汁を搾って使うことが多いです。そのまま飲んだり, 煮詰めてシロップやモラセス (糖蜜) にしたり、発酵させてワインにしたりもします。
本物のグレナディン・シロップは、ザクロの果汁と砂糖から作るシロップのことです。「グレナデン」とは、フランス語でザクロを意味します。
グレナデン・シロップ (仏: sirop de grenadine、英: grenadine syrup) は、ザクロの果汁と砂糖からなるノンアルコールの赤いシロップ。赤い色はザクロに由来する。
注意!現在市販されているグレナデイン・シロップの多くは合成品です。
北インド地方では、乾燥させたザクロの小果実を挽いた粉を酸味づけに使うのだそうです。
紅一点
多数の男性の中の一人の女性のことですね。
男子学生たちに囲まれ卒業写真を撮影したクラス唯一の女子学生(5月26日、撮影・許文豪)人民網日本語版 2018年05月28日より
山東省聊城大学の電子情報工程の卒業式写真、卒業生で女性が一人だけだったみたいです。男子学生たちがウェディングドレス姿のクラス唯一の女子学生を取り囲んで撮影し、青春の思い出として記録してしたみたいですね。
まさしく「紅一点」ですね!