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牛を二つの呼び方で?|イギリスの階級差が生んだ名称の違いとは

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二つの呼び方

「牛」を指差しあるものはこう言った。「Cow」。

しかし、あるものはこう言う。「Beef」

これはかつてあったイギリスでの出来事。「Cow」は元々住んでいたアングロサクソン人が使っていました。そこにフランス・ノルマン地方から来てイギリスを征服したノルマン人は、自分たちの言葉(古フランス語(の方言))で牛のことを、「Beef」と呼んだのです。それゆえに二つの呼び方が英語の中に残ったのですね。まとめると、、、

  1. かつてある時期イギリスを支配していた人々(ノルマン人)は「牛」を「Beef」と呼びました。そして、支配する人々(ノルマン人)は牛肉を食べました。それゆえに、食材としての牛肉は支配する側(ノルマン人)の牛の名称、フランス語の「Beef」になったのです。
  2. 支配された人々(アングロサクソン人)は、支配する人々(ノルマン人)に牛を提供する立場でした。食べる前の生きていた牛をアングロサクソン人が扱ったために、生きている牛は彼らの使っていた英語の「Cow」と呼ばれました。

だから、今でも英語の中では、「Cow」は生きている牛の一つの呼び方。食用の肉となったものを「Beef」と呼ぶのです。(英語で牛の呼び方は、他にもいくつかあります。)

ノルマン・コンクエスト

このきっかけになった歴史的事件はノルマン・コンクエスト(The Norman Conquest of England)といいます。11世紀の中頃から300年にわたりイギリスにいたアングロサクソン人はノルマン人に征服されたのです。当然、フランス文化に影響されているノルマン人の言葉がアングロサクソンの古英語の中に入っていったのですね。

北方の人

ノルマン・コンクエストを起こしたノルマン人というのは、「北方の人」という意味なんだそうです。ヴァイキングの子孫であるフランスのデンマーク人はラテン化しました。その土地はノルマンディ公国としてフランス封建公爵領になります。

フランス語を話すようになったノルマン人

ノルマン人はデンマーク語を捨て、フランス語で話すようになっていきます。デンマーク海賊の子孫であるノルマン人がフランス化していったのですね。

ウィリアム1世の勝利

タペストリーに書かれたウィリアム1世

1066年、そのノルマン人の王であるウィリアム1世約1万の軍を率いて英国に侵入、最終的にイギリスを征服したことをノルマン・コンクエストといいます。ウィリアム1世は英国王になります。

この戦いは5年間もかかってしまいました。それによって、イギリスの土着の貴族がノルマン人によりほとんど一掃されてしまいます。そして、ノルマン人の貴族が土着のアングロサクソン人貴族に代わりイギリスの支配者になるのです。

イギリスの公用語はフランス語!?

上記の流れで、イギリスでは暫くの間、支配者となったノルマン人貴族(フランスから来た)とその協力者だったイギリス系貴族の公用語がフランス語化していきます。そして、1215年にはフランス語が公用語として認められたのです。しかし、大多数の一般の人々は土着の英語を使いました。実にこの状態が300年続くことになるのですよ。

英語の歴史における最大の出来事

このノルマンコンクエストは英語の歴史上、最大の出来事だったのです。征服者たちは古フランス語(の方言)を話したため、徐々に英語にフランス語から大量の単語が流入したのです。

army、authority、beef、calendar、cream、poor、vision、enemy、battle、peace、religion、service、miracle、design、beauty、romanceなど、少なくとも1万語です。英語はすっかり変わってしまいました。

言語と社会の二重構造

イギリスには言語と社会構造に二重構造ができてしまいました。

  • 小地主と農民:英語を話す
  • 国王と貴族:フランス語を話す

つまり、下層階級は英語を話し、上流階級がフランス語を話したのです。

チキンは

アングロサクソン人が主に食べるChickenはなぜ生体でも肉でもChicken かというと、アングロサクソン人が主に食べる肉は鶏だったからです。それゆえに、1種類の呼び方、生きていてもChicken、肉になってもChickenと呼んだんですね。

ポークは

アングロサクソン人は牛と共に豚は食べる習慣があまりありませんでした。それゆえに、豚肉に関しても、それらを食べる支配者、ノルマン人たちからの呼び方、 Pork が「肉」の名称として残ったのですね。生体は ピッグ Pig ですね。

まとめ

英語における食肉の呼び方に関して、歴史的な影響をこれまでみてきました。

ノルマン・コンクエストは英文法にはほとんど影響を与えていません。しかし、語彙(ごい)の面で多大な影響を与えています。現在でも「cow/ox」(牛)、「calf」(子牛)、「swine/pig」(豚)、「sheep」(羊)は家畜の名前で従来からの英語です。そして、ノルマン人が征服したために、それらの食肉を食べる彼らが呼んだ言葉として「beef」(牛肉)「veal」(子牛の肉)「pork」(豚肉)「mutton」(羊肉)と、フランス語が残ったのです。

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