エッセイ

尾崎晋也のエッセイ|8「シチリア」

夜のフライト。バルセロナから飛び立った飛行機の窓の下、海にパレルモの街の灯が映る。シチリア島の中心の街である。イタリアで一番好きなところを挙げろといわれたら、迷わずシチリアと答える。

今回で三回目の訪問。パレルモのオペラハウス、マッシモ劇場で珍しいオペラが演奏されるのと、シチリア第二の都市シラクサの円形劇場でギリシャ古典劇フェスティバルがあるので観に来たのだ。

マッシモ劇場はその名のマッシモ(最大)の通り三千二百席を誇るイタリア最大の劇場。僕の大好きな映画「ゴッドファーザー」のパート三では、最後の舞台にもなった。実際に内部を見られるのもうれしい。

劇場に履いていく靴がなかったので、劇場前の靴屋で靴を買った。サイズ40、一枚皮でシェープのセクシーな茶のプレイントゥー。イタリア人は比較的小さいので、うれしいことに僕にも合うサイズがたくさんある。持ってきたイタリアンスーツに身を包んだら、僕もちょっとしたパレルモ紳士である。日中暑いときには、ネクタイをはずしてサングラスをかけるのが粋なイタリア流。できればカラーの高めのシャツがいい。

公演前にバーに入り、薫り高いエスプレッソとシチリアのお菓子、カンノーロをつまむ。このお菓子は映画ではマッシモ劇場の中で暗殺の道具として使われたのだ。かなり甘い。「ふむふむ、これじゃあ毒入りかどうかわからんな」と、妙に感心する。

劇場では運良くボックス席が取れた。オペラの感動的なラストシーンも終わり、「ゴッドファーザー」の有名な悲劇のラストシーンで映された玄関前の大階段を歩く。幸せな気分。オペラも素晴らしかったし、マッシモ劇場も味わえたわけだ。

次の日、シチリア第二の都市、シラクサの円形劇場で行われるギリシャ古典演劇祭に行く。レンタカーを借りて半日がかりのドライブの後、なんとかシラクサの円形劇場にたどり着く。ギリシャ古典劇を鑑賞し、通りがかりの宿にて一泊。

翌朝、シラクサからパレルモに戻る途中にふとひらめいた。「そうだ、パラッツォ・アドリアーノに行こう!」。映画「ニューシネマ・パラダイス」の撮影地だ。村の映画館を中心に繰り広げられるストーリーは、今までどれだけ多くの人のハンカチをぬらしただろうか。

高速道路のガソリンスタンドで給油してくれたおじさんに道を聞いた。「えっ、あんなとこに行くの? なーんにもないよ。それにすごい山道だし」。すごい山道というのに少々ひるんだが、思い切って行ってみることにした。おじさんの話どおり、大変な岩山のくねくね道を四十分もかけて走ったところにその村は突然現れた。

映画館という設定で使われた古い教会とその前の広場。素朴なその村には観光案内所もお土産物屋もない。頭の中に弦楽器とサックスでアレンジされた美しいテーマ音楽が流れ始めた。その時一人の村人が近寄ってきて言った。「シチリアは好きか? ここは世界で一番美しいところだぞ」

シチリアからは夜行列車で帰った。なんと列車は島とイタリア本土を結ぶ連絡船にそのまま引き込まれる。海風を受けながら船上のバーで飲んだエスプレッソはいつもより苦く感じた。

チャオ、シチリア!

2003/11/07  

シチリアのワイン

シチリアではワインがとても美味しく感じました。ネロ ダーヴォラという、シチリア原産のブドウを100%使用したワインです。

エッセイについて

これは南日本新聞に11年間150回にわたり連載した「指揮棒の休憩」というエッセイです。長く鹿児島の読者に読んでいただいて感謝しています。今回、このブログにも掲載します。

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