日本人は古来様々な形で葛(くず)と関わってきました。その歴史はとても古いです。そして、葛の活用法は色々とあり、まさにスーパーフードなのです。
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葛ってすぐに書けますか?
僕はそう言われてもパッと出てきません。「男はつらいよ」の主人公、「寅さん」は書けるかもしれませんね。舞台の柴又帝釈天は「葛飾区」ですからね。
懐かしいですね
映画「男はつらいよ」は、柴又で生まれ育った主人公の「寅さん」こと車寅次郎が、全国各地を旅しながら、柴又に帰ってきてはさわぎを起こす話で、人情味あふれる様子がえがかれています。 1969(昭和44)年に始まり、1995(平成7)年の最終作までに全48作が公開され、映画館で見た人の数は8000万人以上です。この映画と寅さんのセリフ「私、生まれも育ちも葛飾柴又です」により、柴又は全国的に有名になりました。監督の山田洋次さんは葛飾区の名誉区民になっています。
この地を含む千葉や埼玉、茨城一帯はかつて葛飾郡であった。葛飾の地名は葛(かずら)、くずの木が繁茂していたことに由来して、「葛繁(かつしげ)」が転じたという説があります(他の説もあります)。
1932年(昭和7年)、金町・新宿町・南綾瀬町・本田町・奥戸町・水元村・亀青村の5町2ヵ村が合併して「葛飾区」が成立しました。
書き順
葛の漢字を覚えやすくするために筆順を調べてみました。
でも、漢字には決まった筆順ってないのですよ。便宜的にこの筆順を書きます。
もしお時間あったら YouTube などで、中国の書家の書く動画を見てください。日本の「旧文部省の指導手引き」の流れで筆順を習ってきた私たちは驚きます。筆順違うものが多々ありますよ。
よく見る葛
葛を使った和菓子は多いですね。どんな植物か調べてみたら、、、よく見る植物でした。
空き地によく見ますね。
国栖人(くずびと)
日本書紀には
古くは、日本書紀には「国栖人(くずびと)」、万葉集には「国栖ら」という言葉が出てくる個所があります。「国栖ら」は「国栖人」のことを指します。「国栖人」というのは大和国家以前の山地に住んでいた非稲作民に与えられた呼び方であったようです。
万葉集には
また、万葉集には「草に寄す」と題した相聞歌に国栖(くにす)が出てくます。
国栖(くにす)らが春菜採むらむ司馬の野の しばしば君を思ふこのころ(巻十、読み人知らず)
国栖(くにす)は「国栖人(くずびと)」のことです。
葛(くず)は国栖人(くずびと)から
国栖人(くずびと)たちは山の幸の利用法を良く心得ていました。蔓草(つるくさ)の根を砕いてデンプンを採る特殊技術をもっていたといいます。
国栖人は蔓草(つる草)の根から取ったデンプンを「国栖粉(くずこ)」と名づけて諸国に売り歩いたことがあったので、いつしかその粉に「国栖(くず)」の名が付けられたのではないか、また葛(クズ)という植物名もそこからきているのではないかと考えられています。
国栖人(くずびと)の舞
奈良県には「クズ」と呼ぶ地名が二か所あります。
一つは吉野郡吉野町国栖で、谷崎潤一郎の短編「吉野葛」では紙漉きの里と紹介される山村です。
もう一つは旧南葛城郡葛村(みなみかつらぎぐんくずむら)です。今では御所市戸毛となっています。葛村の方は地名変更で「葛」の名は消えてしまっていますが、近鉄吉野線の駅名「葛(くず)」の方はそのまま残っているのですよ。
この土地にも国栖と呼ばれる人たちが住んでいたのでしょうね。上記の吉野郡の「国栖」とまぎらわしいので、「葛」の字を当てて区別したという説があります。
確かに「葛」駅ですね。
国栖奏(くずそう)
奈良県吉野郡吉野町国栖の吉野川沿いの崖上にある浄見原(きよみはら)神社の舞殿では、毎年旧暦1月14日に「国栖奏(くずそう)」が現地の継承者によって上演されています。
風折帽と呼ぶ烏帽子(えぼし)をかぶり、桐竹鳳凰(きりたけほうおう)の模様を染め抜いた狩衣を着た古代のいでたちで、「翁筋」といわれる家筋の男性、舞翁二人、笛翁四人、鼓翁一人、歌翁五人が神職に導かれて舞殿に登場します。
舞の最後に翁たちは右手を口にあて、上体を大きく反らします。「笑の古風」と呼ばれる所作です。興味深いですね。
日本書紀(702)によると応神天皇が吉野に行幸した際「国栖人が酒と歌を奉じ、歌が終わると口を掌でたたいて笑った」とあります。そして、「国栖は峯高く谷深く道険しく、都から遠くはないが訪れるのはまれ」とも書いてあるのです。神秘的な人たちととらえられていたのですね。
風情がありますね。
中世の頃には
菊花宴として知られる旧暦9月9日の「重陽の節供」には天皇が紫宸殿においでになりました。その時、御帳台の左右には茱萸(しゅゆ)(カワハジカミ)の房を入れた袋を掛け、前には菊をいけた花瓶を飾るのです。そして、紫宸殿の南庭を仕切った承明門の外では吉野の国栖人(くずびと)たちが「国栖奏」を演奏するのがこの祝宴の習いでした。
「重陽の節供」とは、陽数の九が日月に並ぶ佳日なのでこの名があります。五節供の一つに数えられているのですよ。中国の影響を受け、わが国でも古来宮中では、杯(さかずき)に菊花を浮かべた酒を飲み、群臣に詩をつくらせるなどの菊花の宴が行われていました。
鎌倉時代
鎌倉時代に入ると、やっと書物に葛料理の記述が登場するようです。しかし、これは特別なことで、世界的には薬用としての利用しか見当たらないみたいです。
江戸時代に菓子用に使われた
江戸時代の料理専門書でこのブログの名前の元となった「料理物語」(1642)。そのなかに、葛粉を使った料理が紹介されているのです。
その中の「水繊(すいせん)」という料理は以下のように書かれています。
「葛粉をねり、砂糖を入れて湯煮し、冷やして短冊形に切り、黄白二色をまじえて水仙の花に似せた菓子」
見た目にも綺麗なお菓子だったと想像できますね。
葛の様々な使い方
葛で履き物を
中国、詩経(紀元前11〜7世紀)の「南山」と題する詩に葛から作った夏用の履物が書いてあります。
葛履五兩 冠飾雙止
葛履(かっく)は五兩(ごりょう) 冠飾(くわんすゐ)は雙(なら)ぶ
葛で作った履(くつ)は五足。冠の飾りひもは二本。
葛履(かっく)とはクズの蔓から作った夏用の履物です。
履人という官職があって、王や后の履物を作っていたそうです。日本でも葛の履物はあったと考えられていますが、はっきりと記した文献は今のところ見たことはありません。
四字熟語
葛履履霜(かっくりそう) (かっくしもをふむ)
この四字熟語は以下の詩経の魏風の中からとられたものです。
糾糾葛屨 可以履霜
糾糾(きゅうきゅう)たる葛屨(かっく) 以て霜を履(ふ)む可(べ)し
夏に用いるかずらのくつを、冬にもなお用いる意で、貧しいこと、卑賤なこと、また、倹約がすぎてけちなことのたとえです。
葛布
葛布(くずふ、くずぬの、かっぷ)とは、葛の繊維を紡いだ糸からつくられる織物です。
日本では古墳時代前期に九州の大宰府にある菖蒲が浦古墳で鏡に付着した葛布が出土し、これが日本最古の葛布と言われている。奈良時代にも、正倉院文書に葛布の盗難届けが出ているほか、万葉集にも幾つか葛布を詠んだ歌がある。平安時代には、養老律令の延喜式に葛布の染色方法が載っていて、平家物語にも葛布で作られた袴を指す「葛袴」がしばしば描写されている。江戸時代には、公家の直垂、狩衣、武士の陣羽織、裃、火事羽織、道中着などに用いられ、遠州掛川がその特産地として有名になった。
万葉集には
万葉集には葛繊維を布に織って衣服にしていたことを示す歌が収められています。
姫押 生澤邊之 真田葛原 何時鴨絡而 我衣将服
女郎花(おみなえし)生ふる沢辺の真葛原(まくずはら) 何時かも繰りてわが衣に着む(巻二、読み人知らず)
「真葛原(まくずはら)」の真は美称。「繰りて」は「糸を繰(く)る」すなわち「織って」という意味です。女郎花(おみなえし)は女性の寓意。
「女郎花(おみなえし)が生えている沢の辺に広がる葛の原。いつかは葛を糸にして布を織り、着物にして着てみたいものだ」という歌です。「女性をわがものにしたい」という歌なんですね。
葛の繊維で衣服にしていたということがわかりますね。
葛布が特産品となった掛川には
古くから葛の名産地、掛川。掛川城の復興天守(1996年に再建)の最上階の襖には、地元産葛布が使用されています。
美しいですね。
薬用
葛根湯、飲んだことありますか。あの主成分は、葛です。
葛根湯に含まれる生薬
- 葛根:葛の根
- 麻黄:シナマオウの地下茎
- 桂皮:ニッケイ属の樹皮
- 芍薬(しゃくやく):芍薬の根
- 生姜:生姜の根茎
- 大棗(たいそう):棗(なつめ)の実
- 甘草:甘草の根
葛の根を主成分とした「葛根湯(かっこんとう)」は、広く知られている漢方薬のひとつですね。7種類の生薬から成り、「温めて巡りを促す」効果と、「痛みなどを鎮静させる」効果がバランス良く働き、風邪のひき始めの「ぞくぞくした寒気、首や背中のこわばり」に効用があります。
滅多に風邪をひかないのですが、僕も葛根湯にはお世話になったことあります。よく効きました。
そして和菓子には葛
葛粉の原材料は、植物の「葛」の根のデンプンです。そのデンプンを精製し、粉にしたものが葛粉なんですね。
二つの種類の葛粉
- 本葛粉:葛粉100%のもの
- 葛粉:さつまいも等のでんぷんと葛粉を混ぜたもの
高級料亭に限らず、一般家庭でも「あんかけ」とか「濃餅(のっぺい)」をつくるときには今でも本葛(ほんくず/混ぜものは入っていない純粋の葛粉)にこだわる人がいます。
葛粉を作るのは大変
基本的に葛粉とは高価な食材です。
根を掘ることの重労働、精製にかかる手間暇、それに加えて根に含まれるデンプンの割合がたった10%以下なんだそうです。わが国には原料のクズ根は豊富にあるのですが、掘り手がないため原料は入手困難に陥っている現状もあるのですよ。
土中深く眠る山の宝物、寒根(かんね)。寒根とは、希少な本葛(本くず粉)の原料となる葛の根のこと。たっぷりと澱粉を蓄える晩秋から新芽が出る春先までの数ヶ月の間に収穫したものが原料となる。その寒根を山に分け入って探し出し、クワとスコップだけで深い穴を掘り収穫する職人のことを、我々は敬意を込めて「掘り子」さんと呼ぶ。
廣久葛本舗さんのサイトを見ると、もっと細かく写真付きで解説されています。葛の根って大きいですね。
葛を収穫するのはいかに大変かが分かります。
現在、葛生産では鹿児島が日本一
現在、製葛(せいかつ)は奈良、福岡、鹿児島、石川、福井、島根県などで行われており、葛粉は主に和菓子原料、調理材料として使われています。
良質の葛粉を作るためには、水は清く冷たく空気は乾燥していなければいけないそうです。これまで良質な水と冬の寒さが厳しい奈良県の吉野葛、福岡県の秋月葛などが有名な産地でした。
しかし、生産者の高齢化及び減少、原料の枯渇などにより現在、生産日本一は鹿児島県(鹿屋市などの大隅半島)となっています。
葛の原産地である鹿児島大隅半島(高隈連山)は、シラス台地の地層により清らかな水が流れ、冬は、雪が積もるほど寒い環境で、空気も乾燥しているからなんです。
最近は輸入物が多い
本葛粉の生産はクズの根を掘り出す人の高齢化と天然資源の減少によって、現在、国内で出回る本葛粉にしめる中国製の割合が高まっている。台湾産のクズはタイワンクズ (Pueraria montana)、中国産のクズはシナノクズ(P. lobata var. chinensis)であり、日本産のヤマトクズとは植物学的には同種類ではない。
昭和天皇の崩御の直前に葛湯を
「晩年お体を崩されてお食事が取れない状態になられた時、葛湯でしたら流動食ですから召し上がれると、少しずつ口にされていたと聞いております。『葛湯はまだか』と侍従長様におねだりなさることもあったそうです」
野本葛の老舗・黒川本家社長の黒川重之さん談
グリーンモンスターの脅威
1876年(明治9年)、フィラデルフィアで万国博覧会がありました。明治政府が日本館を出展した際に会場装飾として使用するために初めて葛が持ち込まれました。会場の装飾?と思いますよね。なぜ葛だったのでしょうか。
日本館の様子
このフィラデルフィアでの万国博覧会をきっかけに、米国では東屋やポーチなどの装飾として葛が人気になったようです。また、家畜の飼料として1920年代ごろからよく使われるようになりました。
だんだん恐ろしいことに、、、制御不能!
1930年代には河川の土壌をせき止めるためや土砂流出を防ぐ目的でアメリカ全土にどんどん葛が普及していったのです。しかし、それが制御できなくなった結果、現在葛が地上を覆っている面積は3万キロ平方メートルにもなるのです!
3万キロ平方メートルって九州より少し狭いくらいの面積なんですよ。そこに葛が生えているのです。
繁殖力が高いということは、緑化が進んでいるということで、それはいい事なのでは、と思いませんか?しかし・・・この葛の大きな問題は、ほかの植物よりも格段に強いその繁殖力なのです。
葛に巻きつかれた木は、葛の葉が茂るため光合成が出来なくなるそうです。それ以上に、巻きつかれた木を蒸れさせて病気を引き起こしてしまうから最悪です。葛が地表に広がれば他の植物が繁殖することは難しくなります。それは、葛しか生えないグリーンデザート(緑の砂漠)になるのですね。
合衆国の中、これだけの広さに葛は広がっています。
スーパーフードだが活用されていない
内分泌系の補助、血管拡張、神経の安定に有効な数多くのフラボノイド類、肝機能の向上や血圧の安定、動脈硬化予防に良いとされる10種類以上のサポニン、皮膚粘膜の強化となるアラントイン、コレステロールの調整に役立つβ-シトステロールなど、スーパーフードと言っても良いくらいさまざまな健康成分が、葛にはぎっしりと詰まっているようです。
まさしくスーパー・フードですね。
しかし、アメリカでは、葛の利用法はいまだ確立していないのが現状です。バイオ燃料として利用する研究が行われていますが、実用化には至っていないのです。一方、日本をはじめとしたアジア各国では、これまで書いてきたように古くから葛をいろいろな方法で利用してきました。これらの利用法がアメリカで普及すれば、また葛も違った評価になるのかもしれませんね。
私たちが作った「葛まんじゅう」
葛粉は和菓子でよく使われます。この「新料理物語」でも、葛粉を使った「葛まんじゅう」を作っているので、リンク先をご覧ください。
ちょっと変わったものを作ろうと思い、ラズベリー、とブルーベリーも使ってみました。
また、葛切りの作りかたもリンク先にあります。ご覧ください!