エッセイ

尾崎晋也のエッセイ|2「ドラキュラ」

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ドラキュラから解放されたい。と言っても美女でもない私がドラキュラに狙われているわけではない。

私の監督するオーケストラは東ヨーロッパのルーマニアの北西部、トランシルバニア地方のトゥルグ・ムレシュという街にある。戦前はハンガリー領であった。

トランシルバニアは何で有名かというと、ドラキュラ伝説の地なのである。この伝説に私たちのオーケストラはどこにいっても悩まされているのだ。

\映画とは違う原作の面白さがあります/

西ヨーロッパの人々が抱くトランシルバニアのイメージは、深く霧が立ち込め、高くそびえる城の周りにコウモリが飛び交い、遠くからオオカミの声が聞こえる魔性の地、といったものであろう。怖いところ。旅行で通過するにしても、できれば降りたくない。夜になんか絶対に通りたくない、てな感じだろうか。

トランシルバニアの人々はスープを飲むときに一緒に生ニンニクをかじる習慣がある。やってみれば分かるが、これがえらく辛い。現地の人々は「ドラキュラなんか作り話だ。ははは」と笑うが、こっそり「やっぱりこわい」と思っているのかも。

ルーマニアで最新のドラキュラ映画を見た。アメリカ映画である。最初のシーン。夜も更け、コウモリが飛び交っている。ドラキュラがその重い棺桶(かんおけ)のふたを内側から押し上げ、ゆっくり起き上がる。そして近くにいた召使になにやら叫んだ。ルーマニア語ではないか! これには驚いた。しかし、観客は大笑いしていた。「やっぱりねー」なんて声も聞こえた。力ないあきらめの笑いでもある。しかもロンドンにいくと急に流暢(りゅうちょう)な英語を話し出すではないか。ドラキュラってすごい語学の天才だったんだなーって妙に感心する。

(ドラキュラランドにされそうになったシギショアラ 

 

オーケストラの演奏旅行で世界中どこにいっても「あー、あのドラキュラのとこの」と言われる。ついにはルーマニア政府もトランシルバニアに数多くある不気味な城の一つをドラキュラランドという遊園地にして、観光資源にしようなどという自虐的行為にでた。工事は着工しみんな喜んだ。これで観光客もたくさん来るし、お土産も売れる、ホテルももうかる。レストランも改装しなきゃ。国立劇場関係者までもがドラキュラの衣装を大量に作った。お化け屋敷でも作ってアルバイトに行くつもりだったに違いない。

しかし当時、当地を訪れた英国のチャールズ皇太子がその工事現場を見るなり顔をしかめ、EU関係者に「環境破壊に通じる」と一喝され、見事にぽしゃってしまった。今はショベルカーの掘った土の跡が悲しく残っている。

ドラキュラから解放されたい。切に思う。小説を書いた英国人ブラム・ストーカーを恨む。

先日東京都武蔵野市がトランシルバニアの街、ブラショフと姉妹都市関係を結んだ。日本側の関係者からマスコットキャラクター作ったから見てくれといわれる。な、なんだこれは! 牙の出たドラキュラがホウキに乗り飛んでいく様がかわいく漫画風に描いてあった。

2003/07/04 

ルーマニアワイン

僕も飲んでるルーマニアワインです。フェテアスカ・ネアグラはとても珍しくルーマニア以外でなかなかみません。深い味でとても美味しいです。このワインは、ドラキュラという名前でユニークですね。

エッセイについて

これは南日本新聞に11年間150回にわたり連載した「指揮棒の休憩」というエッセイです。長く鹿児島の読者に読んでいただいて感謝しています。今回、このブログにも掲載します。

\エッセイをまとめた本・好評です!/

\珍しい曲をたくさん収録しています/

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