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水の都、ヴェネツィア
ヴェネツィア到着の日に撮った写真
僕と妻は2020年1月にヴェネネツィア を訪れました。ちょうど、僕のルーマニアの新年のコンサートの後、少し休暇が取れたからどこか行こうかと考えていました。その当時、ある作曲家について執筆中で、彼の墓がヴェネツィア にあり、取材も兼ねてヴェネツィアに行こうということになったのです。日本から来る妻と、ルーマニアから行く僕とでヴェべツィア集合ということにしました。
ヴェネツィアで借りたアパート
聞き捨てならぬ情報!
ヴェネツィアではアパートを借り、毎日、ヴェネツィア人と同じような生活をしようと思いました。そこで、「聞き捨てならぬ情報」をゲット!。
なんと、「幻のワイン」があるというのです。僕も妻も多くの人と同じように、「幻」、「限定」、「レア」、「ほんのわずか」系には至って弱い体質です。しかし、それは商法上売ってはいけないワインというものに当たるとか、、、。「レア」どころか、もっと上のポジション、「違法」と来たらちょっとたじろぎました。しかし、「過去に飲んだ」という記事があるのを発見して、「これは飲めないことはない」と見つけることにしたのです。
その情報は
「絶対に探してやる!」という意気込みで、「幻のワインを探す」ミッション開始です。入手したざっくりとした情報は、、、
1)どうやら、それは「フラゴリーノ 」というイチゴ風味のワインらしい。
2)そして、完全に違法。何回も書きますが、、、売ってはいけない、つまりお店に商業的にフラゴリーノとラベルが貼ってある飲み物は「あってはいけない」らしい。
フラゴリーノとは
害虫の被害
19世紀後半、フランスに端を発したフィロキセラという害虫による広大な被害がぶどうに広がりました。フィロキセラは日本名でブドウネアブラムシと言います。正式な学名は「Dactylasphaera Vitifoliae」(ダクティラスファエラ・ヴィティフォリエ)。アメリカ東海岸が原産で、ほとんど目に見えないほど小さく、根や葉に寄生した幼虫が樹液を吸って成長しブドウを枯死させるそうです。これにより、世界各地のブドウが被害にあいました。フランスなど、ワイン生産量の2/3を失ったのをはじめ、イタリア、ましては日本でも1882年(明治15年)に東京の官営種苗会社「三田育種場」で被害が発見されています。甚大な被害だったんですね。このように世界各地に広がったフィロキセラへの対策が、「接木(つぎき)」による措置なのです。
輸入された品種
この接木のために、フランスはアメリカ原産でフィロキセラに強い「ウーヴァ・フラーゴラ(Uva Fragola)を輸入、その後、イタリアにも移植されたのです。つまり、もとのブドウに接木して、害虫に強いクローンを作ろうという計画です。
イチゴの香り
ウーヴァ・フラーゴラはワイン用には想定されていなかったらしいです。しかし、試しにこのウーヴァ・フラーゴラだけを使ってワインを作ってみると、甘く、ほのかにイチゴの香りがしました。イチゴをイタリア語で「フラーゴラ(Fragola)」といいます。それゆえに、そこから作られるワインを「フラゴリーノ(Fragolino)」と名づけたらしいです。
何か違法なのか
いくつか説がありますが、1つは、「ウーヴァ・フラーゴラ(Uva Fragola)をワインにすると、メタノール含有量が多くなるという説。アメリカ産のブドウの普及を抑えるためだという人もいる。そして、生産者が被害に強いブドウばかりを好み、ヨーロッパ原産のブドウの栽培が減るのを恐れているという生産者側からの対策という説。
とにかくフラゴリーノを探そう!
私たちが立ち寄った「バーカロ 」
バーカロ
フラゴリーノは、ヴェネツィアの「バーカロ 」というヴェネツィアの独特の立ち飲み居酒屋にあるらしいという過去の記事がガイドブックにありました。実際に行くと「バーカロ 」はヴェネツィアの街の角角にあり、多くのイタリア人が立ち寄り、軽いスナックとワインなどを楽しんでいます。
「フラゴリーノ 」に関しては、こっそり店の屋根裏部屋あたりに「ブツ」を隠し持っていたとしても、堂々とボトルに「フラゴリーノ」と記載されているものがカウンターに陳列されてるなんてありえません。それらしきワインを飲んでいるお客さんにターゲットを絞り、「君の飲んでるそのフラゴリーノ、分けてくれないかな?」と背後からこっそり話しかける裏技もあるらしいのですが、そんなことは時間の制約がある僕らでは至難の技です。やはり、店員にこっそり聞く方法でいこうということにしました。
ミッション実行!
「バーカロ 」で売っているスナック
まずは妻と一軒、「バーカロ 」に立ち寄り様子を偵察しました。あたりをキョロキョロ観察しながら「ふむふむ、こういう構造なのか」と大体のところを把握。とりあえず、つまみと白ワインを手に決意を新たにしました。「私たちは正々堂々ではなく、コソコソとフラゴリーノを探す目的のために全力を尽くします!」
その後、とにかく手当たり次第に、「バーカロ」に入り小声で「フラゴリーノないですか?」と聞きました。最近はイタリアでもヴェネツィアのような観光地では英語が通じます。ほとんどの店員の答えは「ノー」でした。ヴェネツィアは歩こうと思えば、歩ける広さです(それでもかなりの健脚が必要)。
この状況では、「もっとこっそり」聞かなければと方向転換しました。どこかで誰かが聞き耳を立てている危険性を深く考慮しなかったと反省の上、英語からイタリア語に切り替えて聞くしかないと計画変更。つまり、無邪気な観光客の雰囲気を脱ぎ捨て(法律的には善意の人・事情を知らない第三者)、現地のことを知ってる事情通(法律的には悪意・つまりいけないことと知っていた)として振る舞うことにしました。幸いに、妻はイタリアで料理留学していた関係でイタリア語はよく話せるし、僕もイタリア語は大体わかります。
「ちょっとすみません」と店員を店の端っこに呼び出し、「例のアレ、フラゴリーノないですかねえ」と「ピアニッシモ(すごく弱音)のイタリア語」で聞きますが、どの「バーカロ」 の店員も肩をすくめ「ノン!」と答えるばかり。
ヴェネツィア中を一杯の「フラゴリーノ」のために1日中歩き回りました。しかし、どうしても探せません。
いつも通っているワイン秤売り屋の店員に聞く
夕方になり、疲労感が増し、「こいつはいつも通っているワイン屋のお兄さんに聞くしか他に方法はないなあ」と思いました。彼ともイタリア語で話したので、法律関係の難しいことは今ひとつわからなかったのですが、「フラゴリーノは探せないだろう」という内容は明確に理解できました。
(飲んでいるのは一般的な赤ワイン/「フラゴリーノ」ではありません)
「もしかしたら、11月ごろにきたらあるのではないか」ということで(それも不確実な情報とか)、今回の「フラゴリーノ 」探しは終わり。
巷では
巷では、「フラゴリーノ」と称してイチゴ味のスパークリングワインみたいなものがあるらしいです。それも「ロッシーニ」という代物。日本でも見つけることはできます。しかし、それは「幻のワイン・フラゴリーノ」とは違うのです。それはワインではなく全く別なもの、リキュールなのです。
長い一日
アパートに帰ったら、親切にもアパートのオーナーからのメモが玄関に置いてありました。「フラゴリーノだったら、「ロッシーニ」というブランドのものがスーパーで売っているから、それを買うといいよ」
だから、そうじゃないって!
図らずも買ってしまった「ロッシーニ」、色もイチゴ色です。
疲れ切っていましたが再度アパートから外出し、悔し紛れにその「ロッシーニ」を近所のスーパーで買いました。それをアパートに帰ってから飲むと、、、、確かに、特徴的なイチゴの香りがします。
「それなり」に美味しかったのですが、疲れは癒えませんでした(笑)。
完全にミッション失敗ですね。