漢詩とお酒

漢詩とお酒|王翰(おうかん)「涼州詞(りょうりゅうし)」

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お酒を飲む時、何をおつまみに飲むでしょうか。僕は漢詩が好きで、漢詩を楽しみながら飲むお酒は最高!だと感じます。お酒には様々な飲み方がありますね。漢詩の中にはお酒を愛でるものが多くあります。今宵は古に思いを馳せ、飲もうではありませんか。

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今日は王翰(おうかん)の「涼州詞(りょうりゅうし)」です。まずは読んでみましょう。

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王翰(おうかん)の「涼州詞(りょうりゅうし)」

左から右(→)に読んでくださいね。

葡萄美酒夜光杯
欲飲琵琶馬上催
酔臥沙場君莫笑
古来征戦幾人回

言葉の意味

  • 葡萄美酒:西域地方産の最高級のブドウ酒
  • 夜光杯:西域地方名産の白玉(はくぎょく=大理石の一種)で作った杯 それ自体が光を受けて透明に光る部分が夜の光を感じさせる
  • 沙場:(戦場である)砂漠

王翰(おうかん)の「涼州詞(りょうりゅうし)」書き下し文

葡萄(ぶどう)の美酒 夜光の杯
飲まんと欲すれば 琵琶(びわ) 馬上に催(うなが)す
酔うて沙場(さじょう)に臥するを 君笑うこと莫(な)かれ
古来征戦 幾人か回(かえ)る

王翰(おうかん)の「涼州詞(りょうりゅうし)」現代語訳

ぶどうで作ったうまい酒を、夜中も光る杯(さかづき)に注ぐ(そそぐ)。

飲もうとすると、(誰かが)馬上で琵琶を弾いていて、酒興(しゅきょう)をそそる。

(たとえ私が)酔っぱらって、この砂漠(さばく)(=戦場)に倒れ伏しても、君(きみ、(二人称))よ、(私を)笑わないでくれ。

昔から、この辺境の地に遠征して、いったい何人が(生きて)帰ってこれただろうか。(私は生きては戻れないかもしれない。)

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王翰(おうかん)の「涼州詞(りょうりゅうし)」の感想

これはシルクロードの歌だ

「酔うて沙場(さじょう)に臥するを」、とありますが、これはゴビの平原のことと思われます。つまり国境地帯を守る兵士の詩と考えてよいでしょう。この国境にはシルクロードが大きく関係しています。つまり、シルクロードの延長線上にある国境を守る兵士の歌ですね。

シルクロードとは

シルクロード絹の道英語: Silk Road, ドイツ語: Seidenstraße, 繁体字:絲綢之路, 簡体字:丝绸之路)は、紀元前2世紀から15世紀半ばまで活躍したユーラシア大陸の交易路網である。全長6,400キロメートル以上、東西の経済・文化・政治・宗教の交流に中心的な役割を果たした。19世紀後半に作られた「シルクロード」という名称は、一部の現代史家の間で使われなくなり、東アジア東南アジアインド亜大陸中央アジア中東東アフリカヨーロッパを結ぶ複雑な陸路・海路をより正確に表す「シルクルート」という名称が使われるようになった

ウィキペディアより

上の地図の赤の部分の地上のルートがこの漢詩の舞台になっているシルクロードですね。

そしてゴビ地方は以下の地図上で GOBIと書かれたところです。

王翰(おうかん)の「涼州詞(りょうりゅうし)」は遊牧民の歌

この漢詩は趣があります。馬上で楽器を演奏するのは遊牧民の習慣です。華やかな宴会ですね。「琵琶馬上に催(うなが)す」は、さあ飲めとばかりに馬上で琵琶が演奏される、という意味です。楽器を携えてお酒を飲んでいるのですね。そうなると気分も高揚して葡萄酒を何杯も飲んでしまいそうです。

この漢詩、なんとエキゾチックな描写でしょうか。

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王翰(おうかん)の「涼州詞(りょうりゅうし)」の中の夜光杯

これは諸説あって、グラスという説、そして玉杯というものもあります。僕はかつて正倉院展で見たグラスが心に残っているので、グラス説をとりたいと思っています。

こんなグラスで葡萄酒を馬上で飲んだと想像すると素敵ですね。

最後に戦場が現れる驚き

「酔うて沙場(さじょう)に臥するを 君笑うこと莫(な)かれ」と、殺伐とした沙漠、そして、そこに酔って臥せっている人びとが表されています。気の遠くなるような広大な空間、そして荒涼たる空間がイメージできますね。

その後の展開に驚かされます。美酒を飲んでいた宴会の風景の背景に、「古来征戦幾人か回(かえ)る」と、もしかしたら生きて帰ってこれないかもしれないという心情がうたわれているのです。これには驚きを感じます。西域への戦にかり出された人たちの深い気持ちが表れていると感じ、ジーンとくるところです。

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王翰(おうかん)とは

中国詩人は子羽。并州晋陽県の出身。

豪放な性格で、酒を好み、家に名馬と美妓を集めて、狩猟や宴会に日を送っていた。睿宗景雲2年(711年)、進士に及第し、張説に認められて駕部員外郎に任ぜられたが、説の失脚とともに汝州刺史として都を追われ、次いで仙州別駕に左遷されたうえ、素行が治まらぬと弾劾され、道州司馬に流されて死去。

ウィキペディアより

けっこう、大変な人生がうかがわれますね。こういう説明もありました。

剛健で自負心が強く、酒宴や狩猟を好み、音楽にうつつをぬかしたり、自らを王侯に比して人をあごで使ったりしたという。

これはどうも、、、友達になりたくないタイプの人物かもしれませんね。素行の悪さゆえ、不遇の死を遂げた、そういう人生だったのですね。

王翰(おうかん)は朝廷詩人です。実際には李白や杜甫より少し先輩に当たります。

王翰(おうかん)の「涼州詞(りょうりゅうし)」の形式

この漢詩は七言絶句です。漢詩の形式の一つで、1句に7語、全部で4句28語、五言絶句に次いで短い詩形の漢詩です。

起承転結の形式

七言絶句は全部で4句で以下のようになっています。

  • 第1句:詠い起こす(起句)
  • 第2句:前の句を受けてそこから発展させる(承句)
  • 第3句:場面を転換する(転句)
  • 第4句:全体を結んで終わらせます(結句)

これが起承転結で、七言絶句の漢詩は必ずこうした作りになっています。

驚きの展開

七言絶句は全部で4句、第1句は詠い起こし(起句)、第2句は前の句を受けてそこから発展させ(承句)、第3句は場面を転換し(転句)、第4句は全体を結んで終わらせます(結句)。これが起承転結で、七言絶句の漢詩は必ずこうした作りになっています。

七言絶句だからこと表現できたドラマ

この漢詩は、スケールの大きい世界を表しています。第1句「葡萄美酒夜光杯」の詠い起こし、第2句「欲飲琵琶馬上催」の第1句からの発展は、飲み始めの「乾杯!」といった場面を表しています。

第3句の「酔臥沙場君莫笑」の場面は転換。酒をたくさん飲んで砂漠にひっくり返っている様子ですね。

第4句「古来征戦幾人回」は驚きの結句です。これは驚きの句で、戦場でいつはてるともしれない自分の身の上をうたっているのです。最初の華やかな美酒の場面から、この最後は悲壮感が漂います。ここに驚きを感じるのです。

七言絶句の押韻

押韻はは杯・催・回。漢詩、特に唐代以降の近体詩は1句2句4句で韻を踏みます(1句は踏まないこともあります)。これが押韻(おういん)です。「韻」とは発音した時耳に残る音の響きのことです。押韻は同じ響きを持つ語を句の終わりに置くことで、音声的な美しさを作るのですね。

この漢詩では、押韻は杯・催・回です。

葡萄美酒夜光
欲飲琵琶馬上
酔臥沙場君莫笑
古来征戦幾人

辺塞詩(へんさいし)というジャンル

辺塞詩(へんさいし)とは、辺境の砦を詠んだ詩です。

〘名〙 漢詩で、辺境の地の事物や生活を題材とした詩。辺境に出征した兵士の情や残された家族の悲しみを詠じる。中国の盛唐期に、山水詩と並び盛んになった。王昌齢、高適(こうせき)岑参(しんじん)王之渙崔顥(さいこう)、李頎(りき)王翰(おうかん)らが名高い。

精選版 日本国語大辞典より

王翰(おうかん)の「涼州詞(りょうりゅうし)」の中のお酒は?

中国のお酒は以下の2つの種類に分られます。

  • 黄酒・蒸留酒
  • 白酒・醸造酒

しかし、この王翰(おうかん)の「涼州詞(りょうりゅうし)」に出てくるお酒は、葡萄酒ですね。中国では葡萄酒は古くから作られています。司馬遷の「史記」にはフェルガナ(現在のウズベキスタン)で作られた葡萄酒の記載があります。

葡萄酒という飲み物は、王翰(おうかん)の「涼州詞(りょうりゅうし)」の書かれた時代、中国人にとって西域を象徴するものであったと思われます。

どのようなお酒かはっきりとはわかっていませんが、赤ワインのようなものであってほしいという気持ちはあります。白、ロゼ、赤、とワインには種類がありますが、この詩の僕のイメージからすると赤ワインがぴったりきます。

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葡萄の美酒 夜光の杯

この「美酒と杯」から始まる漢詩の展開はドラマを感じます。

「葡萄の美酒 夜光の杯」は覚えておきたい句ですね。大変印象深いです。

王翰(おうかん)の「涼州詞(りょうりゅうし)」を中国の書法で

現代の中国では、書道のことを「書法」といいます。中国では「書」というと本のことになるので、「書法」と表すようです。書法のYouTubeを見るのは好きで、新しい発見があったりします。筆順が違うこともあります。そもそも、筆順は明確な決まりはないのです。そこも興味深いところです。

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