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魚を美味しく食べるには
このページは魚好きなら必見です。ちょっと難しい化学的なことも書いています。それは昔から多数の人が経験上知っていた、魚の締め方、そして魚を釣り上げた後どの時点が美味しいか、ということが近年化学的物質の解明で分かってきたからです。
なぜ、同じ魚種なのに、食べた場所、そして食べた時により味が違う時があるのでしょうか。魚肉の仕組みをよく知らないと単に「とにかく新しい魚、つまり死んでから時間が少しでも経ってない魚が新鮮で美味しい!」と思う方が多いと思います。しかし、魚独特の化学的な理由があり、そうとも言えないのです。
魚を釣り上げた後
魚を釣り上げた後、どの時点で食べるのかということで味が変わるというのは大前提なのです。生きている魚を釣り上げる前後の変化はこうなります。
1)海の中で生きている魚
2)船上、陸上に釣り上げた魚が死ぬ
3)死後硬直が始まる
4)完全死後硬直
5)死後硬直が解けてくる。
6)「 腐敗 」 への道を進む
この中の「どの時点」で魚肉を食べるのかが、美味しく食べるポイントなんです。まさか、1)の、生きている魚を口に放り込む(シロウオの踊り食いなど、特殊なものは別として)、そして6)最後の腐敗した魚はあり得ませんね。
死後硬直(筋肉の収縮・硬化)がなぜ起こるのか
魚が泳ぐのは筋肉内にある「ATP」(アデノシン三リン酸)という物質を消費し、その時に生まれるエネルギーによるものなんですよ。生きている間は 筋肉が疲労しても、呼吸(有酸素運動)や体内のグリコーゲンの分解(無酸素運動)によ って ATP が再合成され、また元の状態に戻ります。
死んでしまって新しい ATP が補給 されなくなれば、筋肉を構成するタンパク質のアクチンとミオシンの結合が一方的に進行するとともに、ATP の分解と乳酸の生産による酸性化で、筋肉が「硬い」状態となるのです。
最終的には ATP が消失します。これで硬直は完了します。このように死後硬直は ATP の枯渇により進行します。もともと体内の ATP が通常より少ない場合、例えば激しい運動で肉体が疲弊している状態のまま死亡した場合などには、硬直は通常より「早く」始まるのです。
ATPは大切な物質だ
ATPが枯渇するとどうなるかというと、筋肉を構成するタンパク質のアクチンとミオシンが結合します。これにより死後硬直が始まることは書きました。ATPは以下のように変化します。
ATP→アデノシンニリン酸(ADP)→アデニル酸(AMP)→(死後硬直)→イノシン酸(IMP)→イノシン(HxR)→ヒポキサンチン(Hx)
ちょっと難しいですね。
ATPの量が多い場合、その後の変化する旨味成分を含む物質(イノシン酸・カツオ節の旨味成分!)の量も多くなることから、最初にATPを減らさないことがポイントなんですよ。
逆に初期段階でATPが少ない場合、その後の旨味成分も少なくなります。上記、「2)船上、陸上に釣り上げた魚が死ぬ」の時点でいかにATPを減らさないことが大事なのです。
そして、ATP分解は早く、数時間でほとんどが分解されます。さらにIMP(イノシン酸)までの分解は比較的早く進行します。IMPのその後の分解は緩やかです。このIMP、イノシン酸の時期が「熟成期」と言われ、美味しいとされているのです。この流れを見ると、活きてる時は、旨味成分のイノシン酸(IMP)が生産されないので、「活きている魚や釣りたての魚が美味くない」と言われているのはそのためです。
色々なプロセス
魚が海から食卓に上がるまでは色々なプロセスがありますが、まず魚が獲れたら締めないといけません。
釣れた魚をそのまま生きている状態で、手に持って料理場に歩いて行こうとすると、その過程で魚は死んで、常温の中で高速で身が変化し腐敗が始まってしまいます。少しでも魚を美味しく食べようと考えた方法が釣り上げた後「締める」ということです。
「活け締め」は美味しく食べるために、魚を締める代表的な方法
釣り上げた魚を、すぐにその場で食べる場合は別ですが、大概は自宅に持って帰り(または漁獲船から流通経路を経て料理屋へ)食べることになります。そこで、なるべく美味しくない時期(死後硬直期)を先延ばしにして、「その後到来する美味しく食べられる時点」(イノシン酸が含まれる)に合わせて、輸送、調理して美味しい魚を食べれないかと「締め方」が考えられたのです。
生 → 死 →死後硬直開始→完全死後硬直 →解硬 (この時点で食べたい!)→軟化 →腐敗
江戸時代初期にこの「活け締め」が考えられました。これは、日本人の魚にかける情熱が生み出したものです。魚が食卓に上がる頃に、いかに人間の都合の良い状態に魚をもってこれるかという方法なのですね。
魚はどんな方法をとって保存しても、時間が経つと腐敗して行きます。そのプロセスが問題なのです。魚は死んだ後、死後硬直を起こします。その死後硬直をなるべく時間的に後に遅らせようとするのがこの「活け締め」という方法です。そうすると美味しく食べられる時間が後にずらせることができるのです。こうすることで、魚を運搬する間に腐敗が始まることが避けられるのです。
釣った魚や、活きて持って帰った魚を、船上で、または漁港でこの方法で締めることがあります。
ハサミやピックを使う場合は、目の横にあるこめかみあたりを、外から直接突き刺します。ナイフを使う場合は、エラの内側から、こめかみの方に向かって突き刺す中締めを行います。
血抜きは、まずエラの中にハサミやナイフを入れて、エラを切ります。尻尾を切れる場合は、尻尾も切っておきます。釣り場で血抜きを行う場合は、海水の中などで、魚の体を振って血を抜きます。この血抜きをするだけも、4、5時間は死後硬直しません。
よく料亭などで、生きた魚をそのまま刺身にして、残されは身はピクピクしているのを見ますね。よく「活け締め」などと誤解している人がいますが、あれは、、、「活き造り」ですよ。
日本料理は目で味わう料理と言われています。視覚で判断する色、光沢、形などが、おいしさの重要な要素となっているのです。魚の姿造りを設えた舟盛りは、「うわ〜豪華!すごい!」と思いますよね(多くの外国人には違って見えますが)。それは、「直前まで生きてピクピクしていましたよ!」と言うアッピール効果があるからです。味はどうかと言うと、やはり死後硬直後の熟成期が最高とされています。
神経締め
魚の旨みは、旨みの素であるATPの量が大きなポイントとなることは上記の通りです。ATPは生きているだけでも消費してしまいます。さらに、ストレスを感じ魚が暴れたりすると大量に減ってしまいます。つまりその後変化する旨味成分の元がなくなくなってしまうのです。
神経締めのことを書くとちょっと残酷ですが、、
まず、脳を破壊します。
脳にスパイクが刺します。そうすると魚の口がパカっと開きます。
脳を破壊するために開けた穴からワイヤーを刺していきます。このワイヤーは特殊なもので、釣具屋などで売っています。
正しく脊髄に刺さると、魚が痙攣し、ワイヤーが到達している部分のヒレが動きます。神経を破壊したことになりますね。その後、エラから包丁をいれ、骨にそってある動脈を切ります。そして血抜きです。
野締め
まず食用の魚を一般的に見るところとしては、スーパーですよね。
スーパーで並んでいる魚は「野締め」という方法で締めています。築地の市場などでは、「ノジ」と呼んでます。これは、別名「悶絶死」。
暴れて悶絶死する魚は体内に疲労物質(乳酸)が溜まります。味が落ちるのです。 上記、ATPは筋肉のエネルギー源です。魚を肉体的、精神的に疲労させることで貴重なATPが大量に消費されます。死ぬまでの間にATPが急激に消費されるため、すぐに死後強直が始まってしまいます。そして、ATPは旨味成分に変化するので、その後発生する旨味成分も少なくなります。
テレビなどで漁船で大量に取れるサンマやアジを氷水に投げ入れている光景を見たことあるでしょう。あれです。スーパーで並んでいるような魚はほとんどこの「野締め」を経過して並んでます。ある意味「氷に投げ入れてほったらかして殺す」みたいなイメージです。
スーパーなどの大量消費の店では、そんな小さな魚をいちいち活け締めしている時間がないのです。面倒ですよね。だから、この方法で死んだ魚がスーパーに並んでいます。よーく見てください。魚の体に「活け締め」した痕跡(傷)がないですよね。サクや切り身にしてあると特に分かりません。血抜きもしていません。
活け締め、神経締めした魚はどこに行っているか
活け締め、神経締めした魚は、高級な「料理屋さん」に行っています。一般の鮮魚店にもありません。
野締めした魚ばかり食べていると、本当の美味しい魚の味は知らないで生活することになります(もったいない!)知らないは、知らないで幸せですが、、、、、、。ぜひ一度、「活け締め」した魚を味わってください。口の中に全く違う世界が広がります。
どうしても「活け締め」した魚を手に入れたい人は
究極の答えは、、、、、。
「自分で釣って、活け締めにしてください」
それができない場合、、、、、
「高級な料理屋さんで食べてください」(または、高品質な魚を扱う魚屋さんで買ってください。)
スーパーで買って食べる場合
それでもスーパーで買って食べる場合しかない場合は、なるべく1匹を買ってうちで捌くのがいいです。丸々一匹、半身、柵、刺身の順番に劣化が速くなるからです。
これは、細かくパーツに捌いているうちに温度が上がったり、空気と触れる面積が増えて酸化しやすくなるためです。大きなスーパーや鮮魚店では頼むと、1匹をおろしてくれるところが多いです。すぐに全部を食べない場合は、3枚におろしてもらうより、2枚におろしてもらい、次に口にするときに骨付きの部分を自分で下ろすといいでしょう(頑張って下ろしてください!)。
追記
二つの異なる意見の中で
実は今回、魚の美味しく食べれる時点、を特定することで少々混乱しました。
情報として、自分の釣りの経験、死後硬直前がいいという意見、そして一般的な死後硬直後の熟成期がいいという意見、と様々あり、答えを一つに導くことに時間がかかったのです。
漁業関係者、鮮魚店、釣り師、など様々な意見がありました。最終的には「価値観なので人それぞれ」なのですが、ここでは魚を美味しく食べられる時は「死後硬直後の熟成期、イノシン酸が身に多い時期」ということにしました。
関西では
友人が関東から淡路島に旅行して旅館のお刺身を食べた時に「これは!」と驚いたそうです。よく関東で食べられるものに比べて身がしまっていて、食感が違ったからだそうです。これには理由があります。
お刺身のコリコリ感が好きだという人は関西には多いです。関西では「身が活かってる(いかってる)」と表現します。これは死後硬直前の肉(釣り上げてすぐ)がいいという意見ですね。僕が想像するに、淡路島の旅館にはイケスがあって、活魚を締めて刺身にして、すぐにテーブルに出したのだと思います。
この方法は、魚は死後硬直後のイノシン酸の多い時点がいい、という日本の大多数の意見からすると少数派のものです。
このように意見は2分されますね。「死後硬直する前の、身が活かってる状態が最高や!」という関西勢に対して、「死後硬直後の熟成期こそ美味!」という二つの陣営です。これには百家争鳴の感があります。
博多での経験
数年前、博多で「呼子のイカ」の刺身を食べました。
イケスから出してきた直前まで生きていたイカのお刺身です。とてもおいしいコリコリとした「活かってる」イカでした。しかし、「イカは1日冷蔵庫で置いたものがおいしい」という漁師さんが多いのです。これも食感をとるかイノシン酸をとるかの意見の相違ですね。
個人的な意見
追記として、二つの陣営の話を書きました。個人的な意見を書くと、僕は「活かってる」魚が好きです。(少数派ですね)
僕の趣味は釣りです。自分で釣ってきた魚を食べることが多いので、比較的締めてすぐに食べらます。それゆえに、よく「活かってる」刺身を食べています。そして、気長に熟成期まで待ってられないという関西で言う「いらち」な性分もあるのです。(笑)