2022の春、伊勢に行き「さめのたれ」なる郷土料理を探しました。
塩干ししたサメの肉で、軽くあぶって食べる。サメ肌どころか白くキメの細かな肉片で、鮫へのイメージがコロリと変わる伊勢志摩独特の珍味。
伊勢の家庭では昔から、ふつうの魚の切身のように焼いてご飯のおかずによし、また酒の肴にはもってこいとして重宝されながらも、日常でお馴染みのごく一般的な食べ物ですが、実はサメは古来、伊勢神宮では大きな祭典に欠かせない神饌のひとつでもあります。
伊勢志摩地方のスーパーや魚屋、おみやげ品店で簡単に手に入ります。
さめ自体、食べるのも珍しいし、どんな味か興味をそそられますね。
Contents
伊勢に行った
伊勢神宮から車で20分ほど離れた場所にある二見興玉神社や夫婦岩が鎮座する二見浦は、お伊勢参りに訪れた人が伊勢神宮の参拝前に、潮水を浴びて心身を清める「浜参宮」と呼ばれる儀式が古くから行なわれていた聖地です。この写真を撮った日は、天気もよく波の少ない海がきれいに見えました(長時間露光で撮影しています)。
現在でも二見興玉神社をお参りした後に、外宮、内宮の順番でお参りするのが、正式な伊勢神宮の参拝方法とされているのですよ。
伊勢は日本の「心のふるさと」
万葉の昔から「神風の伊勢のくに」と歌によまれた伊勢は、長い歴史を「お伊勢さん」と共に歩んできた町です。伊勢は、海・山・川の自然にめぐまれ気候も温和です。太古の昔から「日本のふるさと」にふさわしい住み良い所であったのですね。
「さめのたれ」とは
「さめのたれ」の語源は確かではないそうです。しかし、この「たれ」の名はヒラヒラとさめの肉を垂らして干したことから、干している時の垂れ下がった姿が由来と伝えられているのですよ。
さめを干している様子
また地元の人は 「さめんたれ」と呼ぶこともあると聞きました。
「さめのたれ」の歴史
さめ・鮫は古名(こめい)を「鰐(わに)」とも言います。「古事記」などの神話にも登場するなど、神代の時代から日本人にとって身近な存在ですね。鮫の干物「さめのたれ」には、古代そのままの「塩干し」と、大正時代からの「味醂干し」とがあり、昔からごく日常的な伊勢地方の郷土食だったらしいですよ。
古事記でのさめ
有名な話「因幡の白兎」には、さめが「わに」と記載されて出てきますね。
原文
かれ、海のわにをあざむきて言ひしく、「吾(あれ)と汝(なむち)と、くらべて、族(うがら)の多さ少なさを計らむとおもふ。かれ、汝は、その族のありのまにまに、ことごとく率(ゐ)て来て、この島より気多(けた)の前(さき)にいたるまで、みな列(な)みふしわたれ」。吾、その上をふみ、読みわたり来て、今地(つち)に下りむとする時に、吾(あ)がいはく、「汝は、我(あれ)にあざむかえぬ」と言ひをはるに、すなわち最(もと)もはしにふせりしわに、我をとらへて、ことごとく我(あ)が衣服(ころも)をはぎき。
こういう場面(現代文)
むかしむかし隠岐(おき)という島に、1ぴきのうさぎがおりました。うさぎは海の向こうの広い陸地(りくち)にあこがれていました。ある時うさぎは悪だくみを思いつき、海にいるサメに言いました。「うさぎとサメ、どちらの一族が多いかくらべよう。お前たち、なかまをつれてきて島から岸までならばせろ」。サメはすっかり本気にして一列にならびました。うさぎはその上を、数を数えながらピョンピョンととんで海をわたり、さいごに「お前たち、だまされたな!」と言いました。そのとたん、はじっこのサメがおこってうさぎをつかまえ、毛皮を全部はがしてしまいました。
さめを食べる
全国的にはさめを食べるのは珍しく、鮫の干物が伊勢神宮に神饌(しんせん)として供えられることから、この地方に広まったのではないかと伝えられています。神宮では今日でも神饌として供えられているだけでなく、古くには朝廷への貢納物として、皇室また伊勢・斎王様の御膳にも進められた御料であったようです。
神饌(しんせん)とは
神饌(しんせん)とは、神の召し上がる食物の総称で、大御饌(おおみけ)・御饌(みけ)・御食(みけ)・御膳(ごぜん)・神膳(しんぜん)・御物(おもの)・御贄(みにえ)などとも言います。
今日、多くの神社でふつうにお供えされる神饌は、和稲(にごしね、籾を除いた米)・荒稲(あらしね、籾付の米)・酒・餅・海魚・川魚・海菜・野菜・菓・塩・水で、それを、生の丸のままの形で、一品ごとに三方に盛って神前に供えている。このような神饌を「丸物神饌(まるものしんせん)」あるいは「生饌(せいせん)」などといいます。 それに対して、明治以前においては、包丁を加え調理した神饌が主流をなしていた。これを「熟饌」あるいは「特殊神饌」・「古式神饌」などというのです。
さめのたれを朝ごはんに?
朝ごはんに食べるということもあるようです。動画でどうぞ。
さめを食べる
那智勝浦町の漁港、朝のセリを見学に行った時も、さめが水揚げされていました。この写真はその時に撮ったものです。紀伊半島ではさめをよく食べると聞きましたが、現場で実感しました。
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さめを食べる習慣は古くからあるようです。全国の内陸部を中心に今でも続いています。さめ肉は、トリメチルアミン-N-オキシドと尿素の含有量が多く保存がきくので、内陸部でも食べられていたのですね。2週間ほど経過したものでも刺身として食べられるほどなんだそうです。
それだからこそ、さめの肉は冷蔵技術が未発達だった頃から山間部で重宝されたのですね。
\那智勝浦の「さめのたれ」です/
広島県
三次市や庄原市などの備北地域でさめは食べられています。
さめを「ワニ」と呼ぶそうです。「ワニ料理」が郷土料理となっています。
主に刺身として食べるそうですよ。
最近では、地域グルメとして、「ワニバーガー」や「ワニ丼」を売りだしています。
ワニバーガー
三重県
今回の伊勢市と鳥羽市沿岸部全域。さめのたれ(さめんたれ)と呼ぶさめの干物を食べます。
栃木県
さめは「モロ」と呼ばれ、煮つけやフライで食べられます。
県内では一般的な食材ですが、モロがさめと知らない人もいるそうですよ。
モロ料理
新潟県
南西部の上越地方では、正月料理にさめを煮こごりなどにして食べられます。
ご当地のさめ料理として、「サメバーガー」と「サメカレー」も。
「サメカレー」
宮城県
さめ水揚量日本一は「気仙沼港」です。
県内では、普通にスーパーで売られ、一般家庭でフライや煮付けで食べられているそうです。他地域で食べられるさめ肉も、気仙沼産のものも多いです。
フカヒレ
青森県
三内丸山遺跡からさめの骨が発掘され、縄文時代から食べられていたとされています。
主に県内で採れるアブラツノザメが食べられます。「鮫のすくめ」が有名です。これは、湯がいたさめの頭の身をほぐし、熱々の状態で大根またはキャベツとともに酢味噌で和える料理です。
鮫のすくめ
さめのたれ実食!
せっかく紀伊半島に来たのだからここでしか食べられないものをいただかないと意味がありません。そこで珍しいものを探してみる事にしました。
「割烹大喜」というお店に行くことにしました。
お店のお品書きの中に見たことのない料理名が、、、
さめのたれ(左最下段)。
これ何だろう?
インターネットで調べてみると、、、、
紀伊半島ではサメを食べる習慣があり、さめを加工した伝統的なお料理で「さめのたれ」と言うものがあるとのこと。早速試してみることにします。
好奇心いっぱいで注文してみました。
出てきたものは干したさめの身を炙ったもので、 レモンが添えられています。
とてもおいしそうな匂いがします。
食べてみると結構歯ごたえがあります。魚の旨味がとても強いですね。
結構しょっぱくて、白いご飯にとても合います。お酒好きの方にはご飯のおかずと言うよりは確実にお酒のあてです。日本酒がいくらでも進みそうな味でした。
何かの味に似ていると考えてみたところ、エイヒレの干物によく似ています。エイヒレの干物もお酒のおつまみなので、さめのたれもお酒のお供にぴったりなのですね。
\通販でも売っています!/
お酒を頂きたいところですが、まだ運転しなきゃいけないので今回は遠慮しておきます。
以上、「さめのたれ」の話題でした。