「菊ヶ谷牧場」別惣仁(べっそうひとし)さんと会った
獣医師の野口等先生と
失礼ですが、ご年齢とともに簡単に経歴をお教え願えませんか。
現在、59歳です。酪農業にたずさわり約39年です。播磨農業高校 https://harima-agri.ed.jp 出身で、その後、北海道の
酪農学園短期大学で学びました。
酪農学園
創立者・黒澤酉蔵(くろさわとりぞう)は田中正造と関わりがあったと知って驚きました。田中正造は確か小学校の時に「公害」という項目で社会の時間に習った記憶があります。
田中 正造は、日本の幕末から明治時代にかけての村名主、政治家。日本初の公害事件と言われる足尾鉱毒事件の重鎮であり明治天皇に直訴しようとしたことで有名です。
黒澤酉蔵は、茨城の貧しい農家に生まれました。14歳で学業を志して東京に出て住み込みの仕事をしながら学校に通う中、16歳のときに足尾鉱毒事件で田中正造氏を知り、その正義感と人間愛に感銘を受けたようです。田中正造氏の援助によって学業を修めていた黒澤酉蔵は、20歳で北海道に渡ります。詳しい経緯は、酪農学園大学のHPをご覧ください。
日本酪農の父「黒澤酉蔵」
1885(明治18)年茨城県久慈郡世矢村(現常陸太田市)に生まれる。20歳で北海道に渡り、牧夫になる。以後、96歳までの生涯をかけて酪農の振興に尽力し、農民のための会社を立ち上げ、農民のための大学をつくった。その業績から日本酪農の父と呼ばれる。
酪農学園大学のHPより
畜産と酪農の違い
別惣さんは酪農家でいらっしゃいますが、畜産と酪農の違いを簡単にお教えいただけませんか。
畜産は牛や豚、鶏といった家畜を飼育し、肉や卵を生産するほか、副産物で衣類の素材となる毛皮などを利活用します。 一方、酪農は牛を飼って牛乳をつくるのが主な仕事です。 つまり、畜産の一部門が酪農です
菊ヶ谷牧場
入り口に看板がありました。「菊ヶ谷牧場」と書いてありましたが、その由来はなんですか。
近くの山の「菊ヶ谷」という字(あざ)からとっています。 自宅、牛舎のあるところは、もともと「別惣」という字だったのですよ。
牛舎に行ってみた
これは、搾乳後、出荷するまでに牛乳を冷蔵保存しておく機械です。この時点では食品の前の「農産物」扱いなのですよ。
そうです。低い温度で保存しています。この状態で、牛乳運送株式会社の集荷を待ちます。
牛のこと
全部で100頭です。 育成牛が40頭 成牛が60頭ですね。
先日、畜産農家さんのところでお聞きしたのですが、但馬牛は気が立っているときには危険で、蹴られたり角で突かれたりするとうかがいました。こちらの牛でもそういうことはあるのでしょうか。
ホルシュタインはのんびりした性格です。見ての通り、近くにいくと人なつっこくて寄ってきたりしますね。
但馬牛(神戸ビーフの牛/世界的有名ブランド牛)を育てる話/「内田牧場」を見学した神戸ビーフの元となる但馬牛を育てている「内田牧場」を訪問しました。牛を育てる上でのさまざまな興味深いお話をお聞きしました。...
あれで生まれて4日目です。生まれた時の体重は、45から55キロくらいなんですよ。
僕が以前見た但馬牛の赤ちゃんに比べてずいぶん大きいですね。ここにいるホルシュタインはどのくらいで成牛になると考えていいですか。
そうですね。2年で成長して成牛になります。そしてお産をしてミルクを出すようになるのですよ。
牛は哺乳類なので、子どもを産まないと乳は出ないということなんですね。1日にどのくらいのミルクが取れるのですか。
1頭から1日約30キロのミルクが取れます。朝と夕方に15キロづつです。
想像していた以上にとれるのに驚きました。1日牛乳瓶100本から150本ですね!
酪農は総合科学
これは、人工授精のための道具です。ここの牛は100パーセント私が人工授精しています。人工授精師の資格を持っているのですよ。
そういう資格があるのですね。知らなかったです。精子はどのように保管してあるのでしょうか。
液体窒素(-196℃)入りの保存ボンベの中で、精液入りのストローをキャニスターに入れて保管すれば品質を損なうことはないのですよ。
いいえ、アメリカやカナダのものが多いです。精液入りのストロー1本(0.25cc入り)で一回の受精ですが、これがなかなかつかないもので難しいところでもあるのです。
牛の成長・妊娠について
成牛になるのに2年とうかがいましたが、妊娠はどういう感じですか。
妊娠期間は280日です。妊娠期間と空胎日数を入れれば、13ヶ月に1回の割合で仔牛が生まれていると考えていいです。
普通は1頭です。でも、たまに双子が生まれる時もあるのですよ。1年に4組くらいでしょうか。確率としたら、ここで、だいたい生まれる60頭のうち8頭は双子ということになりますね。
もちろん助産もします。ほとんど牛の全てを請け負っていると思ってくださっていいでしょう。
酪農で大変なこと
これだけの生体を扱ってらっしゃるわけだから大変なこともあるとは思いますが、、、。休みなどあるのですか。
休みは、ほとんどありません。365日休みなく稼働している状態です。長期の旅行など行けませんね。ただ、酪農ヘルパー制度っていうのが出来てから家族そろって完全な休みにはなりませんが、交代で休みを取ることは可能となりました。
それは細菌性のものですか。どのような問題なのでしょうか。
そうです、菌の問題です。体細胞という検査項目が、取引の基準になっています。1ccあたり30万の体細胞数以下にしないといけないのですよ。厳しい基準です。乳脂肪分も3.6パーセント以上にしないといけないんです。そういう項目がたくさんあるのですよ。
安全のために
安全のためにはどのようなことに気を使っているのでしょうか。
淡路で10軒の酪農家が大阪の「いかるが牛乳」に出荷しています。細菌数、比重、乳脂肪、血乳、抗生物質の検査がメーカーに送る前にあるんですよ。
メーカでの安全検査
清浄化のために、ろ過器や遠心分離装置(清浄機:クラリファイヤー)により、生乳に含まれる目に見えない小さなゴミまで取ります。そして、均質化のために生乳に強い圧力をかけ、乳脂肪球を細かい粒子にします。
(牛乳の脂肪はなかなか混ざりにくい)均質化された牛乳は脂肪球が浮いてこないので、飲み始めから終わりまで均一になり、栄養分の消化吸収も良くなります。加熱殺菌もします、その後は直ちに10℃以下に冷却されます。
いかるが牛乳のHPより
この中の均質化は、ホモゲナイザーと呼ばれるものです。このように安全性には大変気を配っているので、牛乳は食品の中でも最も厳しくチェックされているものと思います。安心して飲んでいただきたいですね。
今日はありがとうございました。 大変興味あるお話で牛乳や乳製品がとても身近に感じられるようになりました。
後日談
この菊ヶ谷牧場の訪問を実現できたのは、鹿児島中央高等学校の同級生・早渕彰くんの協力のおかげです。
牧草関係の仕事(乾牧草 直輸入販売業者・株式会社藤井商店)に従事していて、僕が酪農関係の取材をしたいと申し出たら、色々と考えてくれました。感謝です!
淡路島で早渕彰くんに45年ぶりに再会しました。
牧草のこと
別惣さんにお話を聞いている間に、大きなトラックが入ってきました。12トンの牧草を積んでいます。この牧草をなんと1週間ほどでここの牧場の牛が食べてしまうのだそうです。
別惣さんとのお話
別惣さんはとても知的で魅力的なお人柄で、話していてとても楽しく感じました。興味ある分野が似ていてそれも楽しかったことの一つです。
別惣さんはカメラがお好きで、お互いの好きなカメラや写真の話がはずみました。
別惣さんは歴史にも造詣が深く、地方史、特に淡路島の郷土史のお話に興味をかきたてられました。話していて、時間が過ぎるのを忘れるくらい楽しかったです!